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東京地方裁判所 昭和45年(特わ)284号 判決 1970年9月18日

被告人

1

本店所在地 東京都大田区大森本町二丁目五番六号

電研産業株式会社

右代表者代表取締役

中野稠丸

渡辺豊彦

2

本籍 山形県山形市相生町八百十五番地の二

住居

東京都大田区南馬込二丁目二十三番二号

職業

会社役員

中野稠丸

大正三年二月六日生

被告事件

法人税法違反

出席検察官

川島興

主文

1  被告会社を罰金一、八〇〇万円に、被告人中野稠丸を懲役八月に、それぞれ処する。

2  被告人中野稠丸に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社電研産業株式会社は、東京都大田区大森本町二丁目五番六号に本店を置き、電気通信機・電気機械器具等の製造販売等を目的とする資本金一、五〇〇万円の株式会社であり、被告人中野稠丸は被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人中野は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空賞与・架空仕入等を計上して簿外預金を蓄積する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ、

第一、昭和四一年二月二一日から昭和四二年二月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四六、二七〇、七九五円あつたのにかかわらず、昭和四二年四月二〇日東京都大田区中央七丁目四番地所在所轄大森税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一〇、二九六、三八六円でこれに対する法人税額が二、九六八、三七〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて同会社の右事業年度の正規の法人税額一五、五四二、三八〇円と右申告税額との差額一二、五七四、〇一〇円を免れ、

第二、昭和四二年二月二一日から昭和四三年二月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九四、一二四、三九〇円あつたのにかかわらず、昭和四三年四月一八日前記所轄大森税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一一、〇三三、三五二円でこれに対する法人税額が二、九三五、六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて同会社の右事業年度の正規の法人税額三一、九九〇、三〇〇円と右申告税額との差額二九、〇五四、七〇〇円を免れ、

第三、昭和四三年二月二一日から昭和四四年二月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九五、五五七、七一二円あつたのにかかわらず、昭和四四年四月一九日前記大森税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九、一七一、八七八円でこれに対する法人税額が二、三六一、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて同会社の右事業年度の正規の法人税額三二、五六三、六〇〇円と右申告税額との差額三〇、二〇一、八〇〇円を免れ

たものである。

(なお、修正損益計算書は別紙一ないし三のとおりであり、税額計算書は別紙のとおりである。)

(証拠の標目)

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

(弁護人の主張に対する判断)

一、弁護人の主張

検察官提出の冒頭陳述要旨別紙二の17法定福利費二〇三、三七六円および別紙三の15法定福利費二〇九、二六四円(いずれも従業員に対する架空賞与の計上にともない、被告会社が政府に納付した失業保険料の事業主負担分)は、いずれも被告会社において政府に対し返還を請求しえないものであるから、右各事業年度における雑損失として認容されるべきである。

二、当裁判所の判断

大蔵事務官作成の法定福利費調査書によれば、被告会社は、昭和四三年二月期および同四四年二月期において、それぞれ従業員に対する期末賞与を架空計上し、これにともなつて、右架空計上額に見合う失業保険料の事業主負担分を、同四三年三月三〇日および同四四年三月三一日、本来納付すべき保険料額にそれぞれ二〇三、三七六円および二〇九、二六四円超過して政府に対し納付したことが認められる。

ところで、一般に、事業主が失業保険料をその納付すべき保険料額を超過して納付した場合には、その事業主は、いわゆる不当利得返還請求の一場合として、失業保険法旧規定三四条の三、同法施行規則四二条により、政府に対し、その超過額の還付または翌月以降のもしくは未納の保険料への充当を請求することができるものというべきである。

そこで、これを本件についてみると、大蔵事務官作成の前記調査書および被告人中野の検察官に対する各供述調書によれば、被告会社の前記各期末賞与の架空計上はいずれも脱税の手段として行われたものであること、従つて右各失業保険料の超過納付もまた脱税の手段として行われたものであることが明らかである。そうすると、右各失業保険料の超過分は、被告会社において、政府に対し、不法な原因で、かつ債務のないことを知りながら納付したもので、いわゆる不法原因給付(民法七〇八条)であり、かつ非債弁済(民法七〇五条)でもあるから、被告会社は政府に対し、右各納付した失業保険料の超過分の還付を請求し、または翌月以降の、もしくは未納の保険料への充当を請求することはできないものというべきである。そして、このような場合、通常政府が任意に、あるいは請求により、超過額を事業上に還付し、または右保険料への充当をしているとの証拠もない。してみれば、被告会社が政府に納付した前記各失業保険料の超過額は、いずれも前記各事業年度において被告会社の損失に帰したものというべきである。よつて弁護人の前記主張は理由があるから、弁護人主張の各法定福利費は、各事業年度の雑損失として認容することとする。

(法令の適用)

判示各事実は、各事業年度ごとに、被告人中野につき法人税法一五九条に、被告会社につき同条、同法一六四条一項に、それぞれ該当するところ、被告人中野につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、被告人中野につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人中野を懲役八月に処し、被告会社につき同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金一、八〇〇万円に処し、被告人中野に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 松本昭徳)

別紙一

修正損益計算書

電研産業株式会社

自 昭和41年2月21日

至 昭和42年2月20日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙二

修正損益計算書

電研産業株式会社

自 昭和42年2月21日

至 昭和43年2月20日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙三

修正損益計算書

電研産業株式会社

自 昭和43年2月21日

至 昭和44年2月20日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙四

税額計算書

<省略>

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